白く光るパネル2面に、エコーの写真とマンモグラフィーの写真が張り巡らされた診察室に呼ばれた。
今までの医師とは違う人が「座ってください。」と迎えてくれた。
「はじめまして。主治医でもあり執刀医でもあるAです。針生検の結果が出ました。やはり乳がんでしたね。」と切り出し、検査結果を詳しく説明しはじめた。
右胸腫瘤(シコリ)の病理結果はクラス5で、意味は「間違いなく癌」であると。
癌の種類は、Invasive ductal carcinoma 浸潤性乳管がん。乳がんの種類としては、一番多いものらしい。
腫瘤の大きさは2センチ。進行度(ステージ)は今のところ、1期と2期の間ぐらいとしか言えない。
A医師は、手術内容や術後の治療内容を決めるための検査について、その目的とスケジュールを説明しながら手際よく予約をコンピュータ端末に入力していく。
今日このあと
・手術に備え心電図、肺機能検査を行う。
・入院に備えて、入院オリエンテーションを受ける。
7月11日(水)
・肺など内臓に転移していないかCT-SCAN検査を行う。
・造影剤を使ったMRI検査を行い、右胸のシコリ切除範囲を調べ、両方の胸の石灰化を調べる。
7月12日(木)
・肝臓など内臓に転移していないか超音波を行う。
・手術に備え麻酔のオリエンテーションを受ける。
7月17日(火)
・骨に転移していないか、骨シンチグラフィ・アイソトープ投与検査を行う。
7月20日(金)
・左胸の石灰化を正確に調べるために、マンモトーム生検を行う。
8月1日(水)
・すべての検査結果が出そろい、手術の内容を検討し始めることができる。
1週間前に既に告知はされていたが、正式に癌の種類まで示され緊張を感じた。
事前に聞きたいことをメモしていったので、一つ一つ、冷静に聞くように努めた。
Q.今わかっていることだけで構わないので、手術内容の最善と最悪のケースを教えてほしい。
A.最善は右胸のシコリだけを切除して、乳房温存すること。シコリの周囲1.5センチも含めて切除するので、直径5センチ程度の円柱をくり抜くことになり乳房の形は変形するが、その他は温存できる。手術後は放射線治療をして、抗がん剤治療をする。最悪は右胸・左胸ともに全摘出。リンパ節の切除。リンパ節の切除はセンチネルリンパ節生検を行うので、極力、切除しないようにできる。
Q.手術日の目処は?入院日数はどれぐらい?
A.8月14日か21日が濃厚。入院はおおよそ2週間が目安。
Q.手術後、仕事に復帰できる目安は?
A.仕事の内容にもよるが、1ヶ月程度で復帰している人が多い。
Q.術後治療の放射線治療と抗がん剤治療は、どれぐらいの期間かかるのか?
A.おおよそ7〜8ヶ月ぐらい
Q.最初の告知から結果が分かるまで1ヶ月以上ある。さらに手術はその2週間以降あと。こんなにゆっくりしていて大丈夫か?
A.手術や検査ができる日程の関係で、時間がかかって申し訳ない。しかし、乳がんの進行はとてもゆっくりしたものなので大丈夫。右胸のシコリも、2センチになるまでには5〜6年ぐらいはかかっているはず。
ワタシの質問にイヤな顔一つせず、ワタシの目を見て丁寧に答えてくれた。
「聞きたいことがあれば、何でも遠慮せずに聞いてくださいね。」と言ってくれた。嬉しかったが、今日のところは検査結果がまだ乏しいので、これ以上、聞けることはないなと思った。
最後に、A医師の触診。
右胸のシコリを丹念に確かめる。人差し指と中指を使ってピアノの鍵盤を軽く叩くように触診していた。
2センチのシコリを自分で見つけたことについて「よく見つけましたね♪これぐらいの大きさだと乳がんの触診検査でも、見逃してしまうことがあり得ます」と。
学生に触診させてもいいですか?と尋ねられたので、触らせてあげた。
医師の後ろに座っていた男子学生が、一瞬、照れたような表情を見せ、医師と同じような手つきで触診しはじめた。
医師が学生に「これぐらいのシコリを見逃さないように」と言った。
ワタシは学生に「照れたような顔して触診すんな!アホ!」と言いたかった。